第1回 「交渉」という語のイメージ

交渉という言葉を聞いたとき、あなたはその語からどのようなイメージを描きますか。

テーブルを挟んでそれぞれの代表者が激しく議論をしている姿。それが典型的なイメージかもしれません。それが労使の問題なら「労使交渉」は現在のように経済活動が厳しい状況からはあまり思い描かれる物ではなくなったようです。それに代わって、COP10というような形の環境問題に関する会議の場を考えるほうがイメージしやすいかな、と思います。北朝鮮をめぐる六カ国協議も身近なニュースになる交渉です。しかし、そのような大問題だけを考えるのが交渉ではありません。身の回りの様々な場でも交渉は行われているのです。

あなたが買い物に行って店頭で示されている値段に「いくらかマケテ頂けません?」と言ったとします。そこで交渉は始まっているのです。関西ではデパートでもこの値引き交渉が行われるそうです。これは多分に対話を楽しんでいる趣もあるのでしょうが、それでも交渉は交渉です。国家間でも、会社間でも、夫婦の間でも、親子の間でも、友人との間でも、何らかの話し合いをして決めごとをする行為、これを交渉というのです。身近な問題になればなるほど「これは交渉である」という意識は起こってきません。問題が単純で、すぐに折り合いがついたり解決したりするからでしょう。

どのような事柄が交渉なのか、それぞれ皆さんが考えてみて下さい。そして、どのような形で解決してきたか、あるいは解決のルール化を図っているのか、思い巡らしてみて下さい。

交渉とは「話し合いによって問題を解決することである」という交渉の定義ができます。そう捉えるなら取り上げる問題解決の困難さ、複雑さによって解決方法に違いが出てきて当然である、ということになります。また、それに関わる人・部署の数によっても違いが出てくると思います。個人vs.個人、組織vs.組織ではその違いは大きい開きがあっても当然のことだと思います。

個人と個人が単純な問題をめぐって話し合いをする場合、その解はすぐに出てくるのが一般でしょう。例えば会社の帰りに「チョッと一杯どう」と同僚に言われてOKするのか「今日はチョッと」と答えるのかは即答できることです。このような単純な事柄も交渉の問題であるのです。しかし、組織的な対応を求められる問題に対しては、組織内で「その問題をどのように解決するか」という議論を十分にしておくことが求められます。

問題に対してどのように考えているのかの合意がなされていないといけないのです。当事者間での交渉をしておくことが求められるのです。それを行なうと、組織内の立場や考えの違い(つまり、個々がもつ関心の違い)が如実に示されてきます。TPPへ参加するかどうかに関しての経産省と農水省の立場の違いによる対立はこの一例です。従って、 それぞれの関心(interests)がどのようなものであるか、という考察から始めてその調整にあたる議論が必要になるのです。話し合いをすることによって問題の解決を図るということは、話し合いをするもの同士の調整・妥協が要求されることなのです。

このように、「交渉」という語が持つイメージは理論探求の糸口に結びついていくのです。

以上

著書紹介  土居 弘元氏

土居弘元

国際基督教大学 名誉教授
NPO法人日本交渉協会 常務理事

1966.3 慶応義塾大学経済学部卒業
1968.3 慶応義塾大学大学院商学研究科修士課程修了
1971.3 慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学
1971.4 名古屋商科大学商学部専任講師から助教授、教授へ
1983.4 杏林大学社会科学部教授
1990.4 国際基督教大学教養学部教授(社会科学科所属)
1995.4 教養学部における一般教育科目として交渉行動を担当
2007.3 国際基督教大学を定年退職 (名誉教授)
2007.4 関東学園大学経済学部教授 現在に至る 

【著書・論文 】
『企業戦略策定のロジック』 中央経済社 2002
「価値の木分析と交渉問題」 “Japan Negotiation Journal”Vol.2 1991
「交渉理論における決定分析の役割」 “Japan Negotiation Journal”Vol.16 2004