特定非営利活動法人 日本交渉協会
交渉アナリスト1級会員
指宿 昭一
現在のお仕事についてお聞かせください
弁護士として、主に労働事件の労働者側代理人と外国人の在留資格事件に取り組んでいます。労働事件においては、交渉から始まり、労働審判や民事訴訟を行いますが、どの段階でも交渉による解決の可能性を探り、これができない場合に判決による解決になります。また、労働組合の顧問もしていますので、会社との団体交渉のやり方についてのアドバイスを求められることも多いです。
交渉学を学ばれたきっかけ(交渉学を学ばれる前に苦労された経験など)
私は、弁護士として、労働事件を中心として、訴訟外及び訴訟において、数多くの交渉に従事してきて、多くの交渉経験を得てきました。しかし、それを理論的に整理し、自らの交渉力の向上を図ることができていませんでした。交渉に関する知識や技術を学ぶことで、自らの交渉経験を理論的に整理し、これを通じて、自らの交渉力の向上を図ることができると思い、交渉学を学ぶことにしました。
交渉学を学んでどう実践していますか?
法的紛争に関する交渉は分配型交渉であることが多く、統合型交渉の要素があったとしても、双方の対立が強いために、価値交換ないし価値創造的な交渉をすることは難しい面があります。特に、労働事件は双方の対立が著しく強く、この傾向がさらに強化されています。しかし、仮に金銭請求だけの事件であっても、単純な価格交渉であることはなく、訴訟外において短期間で解決することに双方の利益があるはずです。訴訟に持ち込み、場合によっては控訴審、上告審までも含めて数年間かけて判決を得るよりも、訴訟提起前に短期間で解決できるならば、双方にとって利益があります。しかし、判決の内容を正確に予測することは困難もしくは不可能であり、これを提訴前の交渉で合意形成をするためには、双方の利害と感情を調整しなければならないため、多大な労力を要します。このように、困難な法的紛争事件における訴訟外の合意形成について、交渉に関する知識や技術を活用しています。
また、提訴後でも、交渉に関する知識や技術は役に立ちます。通常の訴訟事件では、当事者と証人の尋問前と尋問後に和解による解決の可能性があります。また、事件によっては、提訴直後の早い時期において和解による解決ができることもあります。弁護士は、提訴後の和解について、法律家として判決の内容を予測して、それに近い内容の和解を成立させようとする傾向が強いのですが、それだけでなく、交渉に関する知識や技術を使って、双方が合意できる和解案を探っていくように心がけています。
交渉学を学び今後どのように活かしていきますか(統合型交渉の実践の例、交渉に対する姿勢、モットーなど)
私は、弁護士になる前は、労働組合(個人加盟のできる合同労組)の役員として、数多くの団体交渉を担当してきました。また、弁護士になってからは、労働組合の顧問弁護士ないし代理人として、会社と交渉を行い、もしくは、団体交渉の援助を行っている。こうした労使交渉においても、交渉に関する知識や技術を活用したいと思っています。
労働運動においては、役員や活動家の間で伝承されてきた交渉に関する知識や技術がありますが、これは、多くの場合、個人の経験が理論化されないで、個人的に伝承されてきたものです。このような労働運動における交渉経験を理論化するために、交渉に関する知識や技術は指針になると思います。
労働組合の役員の間で、交渉に関する経験を引き継ぎ、次の世代に伝えていくことは困難であり、うまくいっていません。その結果、労働組合の交渉力が低下し、労働組合は成果を勝ち取ることができなくなり、それが労働組合の魅力の低下をもたらし、組合員数の減少につながっています。労働組合の交渉力を高めるためには、役員や組合員に対する交渉教育が必要だと思います。このような取り組みをしていきたいと考えています。
もちろん、弁護士としての仕事にも交渉学を活用していきます。