特定非営利活動法人 日本交渉協会
交渉アナリスト1級会員
齋藤 由利子
現在のお仕事についてお聞かせください
私は、看護師として地方にある352床の地域中核総合病院に勤務しています。職員は600名あまり、そのうち看護職員は約350名ほど勤務しており、院内では一番大きな組織です。看護部長として7年目、昨年度から副院長の任も受けています。看護師の副院長はまだまだ全国に少ない状況にありますが、私は日本医療バランストスコア(BSC)認定指導者の資格を活かし、BSCのツールを活用しながら病院長と戦略を立案し、変革を試み、看護の視点を活かして病院の健全経営に参画しています。
30年に渡る看護師の経験は毎日が新鮮かつ自己成長の機会であり、専門職としての学びの原点は患者にあるということを痛感しています。看護部長に就任してからは、最も力を注ぎたいと考えたのは「人の管理と人材育成」でした。同時に、組織として機能するためのチームワーク力を高めることです。管理監督者の3大業務は、業績の管理、人の管理、変化対応の管理といわれていますが、そのなかでも、私は人の管理が最も困難、かつ重要であると考えます。
ベットサイドで必死に働いていた時代も看護部を統括している現在も共通していることは、「この職業を選んで良かった。とてもやりがいがある」と、自信を持って言えることです。
交渉学を学ばれたきっかけ(交渉学を学ばれる前に苦労された経験など)
看護師と「交渉学」はあまり結び付きがないと考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、病院は、ひとつ屋根の下に非常の多くの職種が勤務しており、老若男女の患者を中心として「病気を予防する、治す、病気があってもその人らしい療養生活が営めるよう支援する」ことを目的に組織が運営されています。つまり、対人間の仕事であり、毎日が交渉の連続となります。数字にはあらわれない、人間関係や業務連携そのものにつながる交渉が多くの場面であるわけです。
管理者という立場になれば組織をまとめること、改善すること、連携すること、変革することは重要な役割となります。その役割を遂行するには、すべて交渉が必要であるにも関わらず、一般的には困難を極めている事例が少なくありません。そのようななか、経験値や感に頼るのではなく「交渉学」のスキルを身に付ける必要があると、日本看護協会認定看護管理者育成プログラムにカリキュラムとして取り入れられたことが、私が交渉学を学ぶきっかけになったわけです。以前から交渉にとても興味があり大好きだった私は、学問としてしっかり学びたいとインターネットで検索し、ヒットしたのが「日本交渉協会交渉アナリスト」の研修でした。この研修での学びは、私を一回り成長させて頂く機会となりました。また医療職とは違ったビジネス社会の方々との出会いはとても新鮮であり、良い社会勉強をさせていただきました。
交渉学を学ばれて現場でどう実践されていますか(統合型交渉の実践の例など)
前述のように、以前から交渉大好き人間でしたので、必然的に常日頃から統合型交渉を念頭においています。人間関係そのものをとても大事にしています。病院においては、個々の患者に質の高い医療を提供することが医療者としての最終ゴールであり、職員全員に共通しています。したがって私は病院のあるべき姿に向かい、それぞれの立場でどうすべきかを議論する交渉において、お互いの価値・ニーズを把握し、新たな価値を創造していくということ、合意形成への過程を大切にし実践しています。しかし当然1回の交渉でうまくいかないときもありますが、再チャレンジすることの醍醐味を楽しんでいます。さらに、私自身が交渉学を学んだ成果として、看護部職員には交渉に関する論理的な指導が出来るようになりました。
現場と離れますが、看護師の資格と交渉アナリスト1級資格を併せ持つ者として、全国各地で講演の依頼が有り、活動しています。交渉アナリストで学んだ理論を医療場面に落とし込み、演習を踏まえての講義は、とても反響があります。また、交渉に関する書籍を出版する機会をいただき、連載原稿も継続させていただいています。
交渉学を今後どのように活かしていきますか(交渉に対する姿勢、モットーなど)
人間関係を常に大切にし、信頼関係を構築していくことは自分自身のモットーです。信頼関係なくして良い仕事ができるはずがありません。私の尊敬する、クルト・レヴィンは、「人間の行動(B)=個人の能力(P)×職場環境・風土(E)」という公式を唱えています。つまり、どんなに個人の能力(P)が高くても、病院の方針や管理者の命令、部門の目標、職場環境等(E)が悪くては、部下の士気も上がらず、業績(B)も向上しないということを述べています。この公式にある「個人の能力」があがるような「職場環境」を整えていくことが私の役割であると考えます。これからも様々な人とより良いコミュニケーションを持ち、信頼関係を構築していけるよう努力したいと思います。