「デザインする」ということ
「デザインする」という語はかなり広い意味で使われるようになってきた。単に建物を設計するという意味だけでなく、「車をデザインする」「洋服をデザインする」というイメージがわいてくるのが普通になってきている。大型店舗の規制が緩和されて以来、各地にショッピングセンター、モール、アウトレットと呼ばれるような消費者に向けた大型店舗群が開発されている。これらはその原型は百貨店(デパートメント・ストア)であるが、その考えは「商店街をデザインする」にあるといえる。本来、街はデザインされるものであり、城下町は「如何にお城を攻められないようにするか」がデザインの基本になっていた。そして、そこに住む人の身分や職業に合わせて区割りがされ、街がデザインされた。ヨーロッパの都市や中国の都市は城郭でまわりを囲い、その中に住居がデザインされ街として展開していた。
一時期、日本の街はデザインするという考え方を捨てていたように見えるが、最近ではディべロッパーの活躍であちこちときれいな街が出現している。一区画に巨大な商店街が建設される。それも一つの方向を持って考えデザインされた街である。旧来の街道に沿った商店街は駆逐されるのは火を見るよりも明らかである。尤も旧来の街並みの方が人の情に合っている、とデザインされた街を嫌う人もいる。百人十色、好みは人様々である。
交渉の問題を考えるときもデザインをすることが多い。まずどのような結果を望んでいるか、を考えておくことが必要である。それが想定される結果をデザインすることである。許される範囲でいろいろなデザインをしておく。交渉とは相手方との話し合いで合意を目指す行動であるから唯一通りの解を強引に目指すだけではダメである。相手方を説得して、強引に自分の考え方を押し通すのも一つの方法であろう。しかし相手方の考えや思いを無視して押し通すことは難しい。2番手、3番手の結果をデザインしておくことになる。満足水準を満たすなら最適な値が得られなくてもよしとする。これ以上であればよいという水準、それを「満足水準」という。それを数値で表現したものが「留保値(reservation value)」である。
デザインするのはどのようなプロセスで交渉を進めるか、ということも含まれる。工程のデザインをすることである。結果に至る工程をデザインして、それぞれの途次でチェックをする。チェックによって進度についての検討も必要になる。
個人で交渉するのでない限りどのように自陣をセットアップするか、これもデザインの問題である。どのような連携を作りあげて、それをどのように動かしていくか。これが3D交渉でいう戦略である。
どのようなデザインを描くか、その出来具合によって結果の出来具合が評価されるのではないか。そのようなことを考える。
著書紹介 土居 弘元氏
国際基督教大学 名誉教授
特定非営利活動法人日本交渉協会 名誉理事
- 1966.3
- 慶応義塾大学経済学部卒業
- 1968.3
- 慶応義塾大学大学院商学研究科修士課程修了
- 1971.3
- 慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学
- 1971.4
- 名古屋商科大学商学部専任講師から助教授、教授へ
- 1983.4
- 杏林大学社会科学部教授
- 1990.4
- 国際基督教大学教養学部教授(社会科学科所属)
- 1995.4
- 教養学部における一般教育科目として交渉行動を担当
- 2007.3
- 国際基督教大学を定年退職 (名誉教授)
- 2007.4
- 関東学園大学経済学部教授 現在に至る
【著書・論文 】
- 『企業戦略策定のロジック』 中央経済社 2002
- 「価値の木分析と交渉問題」 “Japan Negotiation Journal”Vol.2 1991
- 「交渉理論における決定分析の役割」 “Japan Negotiation Journal”Vol.16 2004