第21回(真田幸光氏)ネゴシエーション研究フォーラムを開催いたしました。
第21回 ネゴシエーション研究フォーラム
2025年2月5日(水)
「アメリカ大統領選後の世界と日本の外交について」
<オンライン開催>
特定非営利活動法人 日本交渉協会 主催
【講演者】真田 幸光 氏
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2025年2月5日、2年ぶりとなる「第21回ネゴシエーション研究フォーラム」をオンラインで開催しました。今回は「アメリカ大統領選後の世界と日本の外交について」と題して、嘉悦大学副学長、愛知淑徳大学名誉教授、国際金融経済学者である真田幸光氏にご講演いただきました。
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1.トランプ大統領は何を目指しているのか?
- 各国の利害が衝突する時代だからこそ、アメリカが再び指導力を取り戻す。
- 相対的に地位が低下したアメリカの復活を目指すために「アメリカ・ファースト」を掲げているのであって、内向きになっているのではない。
- 今日のような混沌とした世界をもたらしたのは、グローバリストの既得権益層(ディープステート)である。したがって、まずこれらを潰す。
- 彼の言う「ディープステート」とは、軍事産業、製薬企業、マスコミ、金融機関を念頭に置いている。
- トリプルレッド(政府、上院、下院が全て共和党の状態)のうちに決着をつけたい(向こう2年)。
- そのために、最初の半年で事実の洗い出し、戦術立案。次の半年で実行、次の半年でリバイズ、次ので完成を目指す。
2.政策①:戦争終結(ロシア/ウクライナ、イスラエル/パレスチナ)
- 戦争を利権としている軍需産業を抑える。
- インフレを抑える(戦争により、食料、石油、ニッケル、金、工業用ガスなどの資源が高騰)。
- 昨年夏時点でアメリカのインフレ率は9.1%→金利引き上げ5.5%→国民生活を圧迫。
- 金利を下げさせるには、インフレを抑えなければならず、そのためには戦争を止めなければならない。
- 為替相場を適正にしたい(IMFによれば、現在の適性相場水準は1ドル=110~120円)
- 適性相場から乖離しているということは、ドル高であるアメリカも損をしているということ。
- その原因は、キャリートレード(例えば、金利の安い円で借り、ドルで高金利運用して儲けるというようなこと)にある。これが最大で500兆円まで膨らんだ。
- 為替市場がキャリートレードに翻弄されていると考え、これを規制しようとしている。そのために、各国の金利差をなくさせたい(現状では、アメリカは利下げ、日本は利上げ方向)。
- 日本(日銀)は、基本的には潜在成長率まで金利を上げたいと思っている。。あと0.5%は年内に上げてくる可能性がある。一方、アメリカは金利を下げたいが、戦争の行方次第である。
<外交>
- ウクライナに武器供与を止める。
- ロシアは思ったほど困っていない。
- ウクライナに国連軍を置き、休戦のシナリオ。
- ロシアはアメリカの足元を見ており、ゼレンスキーとの交渉を拒む。
- ゼレンスキーを排除するため、ウクライナに選挙の前倒し圧力。
- 一方、ガザの方は休戦が成立したが、むしろ火種はこちらにありそう。
- イスラエルはガザ西岸からパレスチナ人を追放しろと主張している。
- トランプがイスラエルの肩を持っているという見方は怪しい。
- 石破首相がトランプと会談するなり、突然パレスチナの難民受け入れを表明。アメリカの圧力か?
- 原油価格高騰は簡単には収まらないのではないか?
- 市場はそれを見越している。金利は簡単には下がりそうにないので、キャリートレードは解消しない。
- 今すぐ円高に向かう様子もなさそう。
3.政策②:関税
- 軍拡、宇宙開発などでアメリカの覇権に挑戦する中国を抑える。
- 同盟国にも対中高関税圧力、あるいは中国製品不買圧力の可能性。
- 同盟国が中国で製品加工を行っている場合にも圧力をかけてくる可能性。
- 軍需物資である半導体などに対する規制も。
- 移民難民管理に対する制裁(メキシコ、カナダ)
- メキシコはしたたかにトランプと向き合っているが、カナダのトルドーは正面から対立。実はカナダ最大の対米輸出品は化石エネルギー。故に強気。
- トランプは中国製の違法薬品がカナダ経由で流入していると疑っている。
- 高関税政策はインフレに結び付くとの見方があるが、アメリカは国内で必需品を賄えるので、関税をかけてもコアインフレにはつながらない。また、影響のある品目には高関税をかけないなど、選別をしてくるだろう。
4.政策③:パリ協定離脱
- 温暖化問題は科学的に立証されているのか?(クリントン・ゴアがつくったプロパガンダではないか?)
- 否定しているのではなく、立証されるまで待つべきだと言っている。
- 一方、ガソリン車主体のビッグ3を復活させ、雇用機会を創出したいとも考えている。
5.政策④:WHO脱退
- これもワクチンを否定しているのではない。臨床結果が確かめられていないものを推奨するのはおかしいので、トレースすべきと言っているだけ。
- テドロスに対する不信感。
- アメリカの製薬会社は海外に生産拠点を移し始めている。
6.政策⑤:領土問題(グリーンランド/パナマ運河)
- 実はグリーンランドの問題を言い出したのはトランプが初めてではない。
- かつてはトルーマン、ジョンソンも問題視していた(当時はソ連を念頭に置いていた)。
- グリーンランドは防衛上の要地であり、地下資源が豊富。また、ロシアや中国が開拓している北極海航路に参入したい。
- パナマ運河も戦略上の要地であり、そこに中国が影響力を強めている。
7.日本の外交は?
- トランプを嫌いの一言で片づけるのではなく、トランプにはトランプなりのロジック、背景があることを理解する必要がある。
- 相手が何を考えているかを知ることが、交渉の始まり。
- 日本はトランプが何を目指しているのかを理解し、利害を共有する同盟国としての外交を展開すべき。
【講演者】真田 幸光 氏
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<プロフィール>
嘉悦大学副学長
愛知淑徳大学名誉教授
日本の国際金融経済学者。専門分野は韓国・台湾・中国・モンゴル・ベトナム・北朝鮮を中心とする東アジア地域経済と国際金融。
1957年生まれ。曽祖父が真田家(松代藩)当主。
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1981年、東京銀行入行。
1995年、韓国延世大学留学。 1997年、東京三菱銀行ソウル支店主任支店長代理。
同年、ドレスナー銀行東京支店企業融資部長。
1998年、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション研究所助教授に就任。
2002年、同大学コミュニケーション学部教授。2004年、同大学ビジネス学部教授。
2024年10月より同大学名誉教授。嘉悦大学副学長。
著書『日本の国際化と韓国』、『アジアの国、日本』など多数。
BSフジ「BSプライムニュース」では韓国経済や国際金融経済をテーマにした回に度々出演。
※戦国武将・真田信之の直系子孫。祖父の代より分家となるが、祖母方がこちらも戦国武将・上杉家直系である。また、慶應義塾大学野球部の出身でもあり、三田倶楽部(野球部OB会)の理事も務める。