第8回(松浦正浩氏)ネゴシエーション研究フォーラムが開催されました。

平成26年11月8日(土)きゅりあん(品川区立総合区民会館)にて、
第8回ネゴシエーション研究フォーラムが開催されました。

第8回ネゴシエーション研究フォーラムの様子

ゲストスピーカーは東京大学公共政策大学院特任准教授・松浦正浩先生で、
「交渉学からみた社会的合意形成」をテーマにご講演いただきました。

まず、「民間ビジネス交渉と公共政策の形成過程における交渉・合意形成の違い」について、参加者に意見を問い、皆で考えるかたちで講義が始まりました。公共政策における合意形成はマルチステークホルダープロセスであり、高い外部性をもつため、ガバナンスが必要である、また、長期的に見ていく必要があるため、順応的管理が必要である、利害の取引だけでなく、公正性や法規制にも配慮すべきものである、などの分析がなされました。

また、自国に限定しない国際的な政策にかかわる交渉での合意形成の性格について、解説していただき、国際的な交渉のbargainingの幅を決めるのは、それぞれの国民や国内団体であり、交渉に直接あたるアクターと前者両方を分析する必要があるとのロバート・パトナムの「2-level game」説に触れられました。つまり、国際的な交渉は当事者がマルチレベルガバナンス下にあるため、それぞれのレベルについて分析を行う必要があるのです。

続いて、フィッシャーとユーリの「Getting to Yes(邦題:ハーバード流交渉術)」を引いて、立場と利害のうち、利害に着目することで合意に至れる可能性について「キャンプデーヴィッド合意」を例に挙げて説明されました。

次にいよいよ「交渉学に基づく社会的合意形成」について、話が進められました。そこで、合意形成のための現実的な問題解決手段として、協働ガバナンスの必要性が説かれました。協働ガバナンスとはステークホルダー対話やコンセンサス・ビルディングなどの、交渉による合意形成システムです。

「協働」(=交渉による合意の模索)と「市民参加」(=個々の意見が異なるかかわり方)、「熟議」(=合理的な対話による新たな価値観の模索)の違いなどにも触れた後、参加・協働プロセスが政策決定プロセスを補完できるように設計し、活用していくことを提案されました。アプローチ方法としては、前掲のコンセンサス・ビルディングのほか、パブリック・インボルブメント、参加型まちづくりなど様々な方法があることが紹介されました。

交渉を上手く進めるためのメディエーションやファシリテーションの効果や、コンセンサス・ビルディングの具体的な設計などについて、北常三島町交差点を例に挙げ、誰もが共存できる対策を発見するための交渉の必要性を再確認しました。

最後に日本では役所のシステムの硬直性が合意形成にマイナスの効果を与えているとのお話があり、考えさせられました。私たちに課せられた課題は多いようですが、共存できる合意に時間をかけずに到達できるよう、ひとつひとつ自分のできることから取り組んでいきたいと思います。

【講演者】松浦 正浩 先生 プロフィール

松浦正浩先生

1974年生まれ。東京大学工学部土木学科卒。
マサチューセッツ工科大学都市計画学科修士課程修了(1998年)、
三菱総合研究所研究員(1998−2002年)、
マサチューセッツ工科大学都市計画学科博士課程修了(2006年)を経て、
現在、東京大学公共政策大学院特任准教授。Ph.D.(都市・地域計画)。
交渉に関する学際的研究をハーバード大学交渉学プログラムで、合意形成に関する実践的研究をマサチューセッツ工科大学都市計画学科でサスカインド教授の下、行う。
著書に『実践!交渉学 ─いかに合意形成を図るか』(2010年/ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門』(共訳、2008年/有斐閣)ほか多数。

<著書>

  • 実践!交渉学 ─いかに合意形成を図るか』

実践!交渉学

二人以上の人間が、未来のことがらについて、話し合いで取り決めを交わすこと―
「交渉」をそう定義するなら、身の回りの問題から国際関係まで、使われる場面はとても多い。
本書が扱う「交渉学」とは分野にしばられず、交渉にあたってのフレームワークを築き、当事者全員にメリットが出ることを目指すものだ。
小手先のテクニックに終始しない、その基本的考え方と方法、そして社会的意義をわかりやすく解説する。

〔目次〕
第1章 交渉とは何か
第2章 交渉のための実践的方法論
第3章 社会的責任のある交渉の進め方―Win/Win関係の落とし穴
第4章 一対一から多者間交渉へ―ステークホルダー論
第5章 社会的な合意形成とは
第6章 交渉による社会的合意形成の課題―マスコミと科学技術
第7章 交渉学についてのQ&A
(筑摩書房:書誌情報より)