交渉学特別セミナー “Responsible Negotiation and Leadership”報告

交渉学特別セミナー “Responsible Negotiation and Leadership”報告

報告者:交渉アナリスト1級会員 窪田恭史

Responsible Negotiation and Leadership

9月6日、「交渉学特別セミナー“Responsible Negotiation and Leadership”ー米国・英国の交渉学の教授を招聘し、最新の交渉理論、交渉教育を学ぶ特別セミナー」が開催されました。

アラン・ランプルゥ先生とミシェル・ペカー先生

講師は、ハーバード大学PON(Program on Negotiation)のアラン・ランプルゥ先生とオックスフォード大学PONのミシェル・ペカー先生。

交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル

講義は主に、ランプルゥ先生の著書『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』(英語題“The First Move”)の要点である、「交渉を前進させるための10原則」と「あらゆる交渉で重要な3つの側面」について、同協会の専務理事奥村哲史先生によるポイント解説を交えて行われました。

人は生まれ落ちた時から、何らかの交渉を日々行っています。赤ん坊が母親に空腹を知らせるために泣くことが交渉の始まりとすれば、人は本能として交渉力を備えているともいえます。しかし、それゆえか世界中で多くの交渉が半ば直感に基づいて行われているという現実もあります。しかし『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』にも書かれていることですが、人は交渉スキルを学ぶことで、そうでない場合よりもより望ましい成果を得ることができます。また、交渉力は学ぶことによって誰でも上達させることができるということです。今回の「交渉を前進させるための10原則」と「あらゆる交渉で重要な3つの側面」は、そのための最も重要なポイントと言えます。

ミシェル・ペカー先生

初めに、ペカー先生より「交渉を前進させるための10原則」についての講義がありました。

交渉を前進させるための10原則

図の青い部分、「明白なこと」と書かれている部分を上から縦に見たのが通常、直感に基づいて行われる交渉プロセスです。すなわち直観に基づきアクション→交渉参加→自分本位→結論ありき→自己主張→取り分の奪い合い→表面的な解決案→その評価→最終的な解決策の選択→合意、というプロセスになります。

しかし、これらのことはあらゆる交渉で自明に行われることなので、交渉力を高めるには別のポイントに目を向けなければなりません。それが明白なことの前に行うべき「大切なこと」です。図のオレンジの部分がそれに該当します。これが「交渉を前進させるための10原則」であり、右側の「ポイント」欄にその要点を記載しました。

アラン・ランプルゥ先生

続いて、ランプルゥ先生より「あらゆる交渉で重要な3つの側面」についての講義がありました。3つの側面とは、「人」・「問題」・「プロセス」。あらゆる交渉の準備において、この3つを必ず考慮に入れなければならないということでした。

1.人に焦点をあてる

人に焦点をあてる

「人」の範囲をどこに置くかによって、交渉の結果は大きく違ってきます。講義の中では「人」の範囲を1962年のキューバ危機におけるジョン・Fケネディ大統領に例えてお話がありました。すなわち、自分はケネディ大統領自身、プリンシパルはアメリカ国民、相手はフルシチョフ書記長、実行者はアメリカ軍およびソ連軍、その場にいない人たちは地球上の人々、次世代の人たちは文字通りです。キューバ危機の回避は、ケネディとフルシチョフが誰に焦点をあてて交渉したかで得られた歴史的成果でした。以下、「問題解決」、「プロセス促進」も同様です。

2.問題解決

問題解決

3.プロセス促進

プロセス促進

繰り返しますが、これら3つの側面は、交渉のより良い結果を生むための必須要素になります。

講義風景

講義の後は、いくつか質疑応答が行われました。まず現代で良き交渉者(リーダー)として誰が挙げられるかという質問に対しては、ドイツのメルケル首相が、サーバント型であり、問題を伝える能力に長けているという点でそうであろうというコメントがありました。また、質問をしながら相手の考えを引き出しより良い成果を上げるという点では、助産師さんなどまさに良き交渉者と言えるであろうということでした。

次に恐らく多くの人が抱くであろう、とても交渉になりそうにない、例えばテロリストのような相手にこの原則を当てはめた場合のポイントは、という質問に対しては、問題の焦点を絞ることが大切であるということでした。

三つめは、『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』でも強調されていたアクティブ・リスニング(積極的傾聴)について。良き交渉者(リーダー)とは、問題の解決策を出す人ではなく「より聴くことができる人」。お話の中でアメリカ民主党の元下院議員ハワード・ウォルプ(1939~2011)の例が挙げられました。死刑制度に反対する彼は、死刑制度を支持する人々の集会に乗り込み、自分の価値をただ押し付けるのではなくひたすら彼らの話に耳を傾け、かつ自分の理解が間違っていないか尋ねたそうです。相手の言うことを正確に理解することはそれほどまでに難しいからで、これからの交渉者(リーダー)必要なのは”Active Listening”というより、むしろ”Active Perceiving”(積極的認知)であるとさえ言えるかもしれないということでした。

アラン・ランプルゥ先生とミシェル・ペカー先生と奥村先生
左から奥村哲史先生、ミシェル・ペカー先生、アラン・ランプルゥ先生

●講師プロフィール

アラン・ランプルゥ ハーバード大学 PON

アラン・ランプルゥ
 アラン・ランプルゥ氏はブランダイス大学Alan B. Slifka記念講座教授および同大学大学院ヘラー・スクールの共生・紛争研究科長であり、ハーバード・ロー・スクール交渉プログラムのエグゼクティブ・コミッティーのメンバーです。著書『The First Move:A Negotiator’s Companion』(邦題:『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』白桃書房)は各国で翻訳出版され、フィナンシャルタイムズ紙も彼の学術的貢献を称えて「今週の教授」欄にとりあげています。
 哲学と法学の修士号をブリュッセル大学で取得後、フルブライト・フェローとして、ハーバード・ロー・スクールで米国における法学の最高資格であるS.J.D.(法学博士)を取得しています。
 学術的研究と教育はもとより、交渉のコンサルティング、紛争の仲裁実務としての多彩な活躍は、グローバル企業への管理者教育やプログラム開発およびEU、NATO、OECD、UNDP、UNITARそしてWHOなどの国際機関に及んでいます。
 ヨーロッパにおける交渉学の先駆者として1995年にフランスのESSEC経営大学院にIRENE(The Institute for Research and Education on Negotiation/欧州交渉教育研究センター)を設立し、2008年まで初代所長を務めました。2003年から2009年にかけては、ウィルソンセンター(The Woodrow Wilson International Center for Scholars)を通じ、アフリカのブルンジ共和国やコンゴ共和国現地において「和解とリーダーシップ」を実践し、2004年には欧州委員会の交渉カリキュラムも開発しています。

交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル
『交渉のメソッド:リーダーのコア・スキル』白桃書房

ミシェル・ペカー オックスフォード大学 PON

ミシェル・ペカー
 ミシェル・ペカー氏は、ハーバード大学神学研究科で修士の学位を取得した後、米国ウィスコンシン州議会の立法実務に携わった後、ハーバード大学Development Officeに1990年から1995年まで勤務し、1997年からはフランスESSEC経営大学院MBA課程の国際開発ディレクターを経て、交渉と仲裁に特化したコンサルティング・ファームCO-DEVのマネージング・ディレクターを務めています。ランプルゥ氏の著書『The First Move:A Negotiator’s Companion』の英語版編集を担当し、現在は、オックスフォード大学Said Business SchoolのProgramme on Negotiationのファカルティ・メンバーとしてグローバルなMBA教育も担当しています。

奥村哲史 NPO法人日本交渉協会 専務理事

奥村哲史
 早稲田大学大学院博士後期課程修了、滋賀大学経済学部教授を経て2006年より名古屋市立大学大学院経済学研究科教授。1994年よりノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院DRRC(紛争解決研究センター)フェロー、2003年よりリスクマネジメント協会評議員を兼任。国際学術誌での交渉と紛争解決の研究論文のほか、日本版ハーバード・ビジネス・レビュー、一橋ビジネス・レビューの交渉特集号、著訳書に『予測できた危機をなぜ防げなかったのか:組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』『影響力のマネジメント:リーダーのための実践の科学』(以上、東洋経済新報社)『交渉力のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)『交渉の認知心理学』『「話し合い」の技術:交渉と紛争解決のデザイン』『マネジャーの仕事』(以上、白桃書房)『組織のイメージと理論』(創成社)などがあります。